「長男の就職活動」が終わって5か月が経過しました。
来年の春には社会人になると思うと、胸にこみ上げるものがあります。
長男が生まれた22年前、私は人材サービス会社で人材紹介事業の責任者をしていました。
多い日には1日に4〜5名の転職希望者と面談し、これまでに2,000名以上の就職・転職を支援してきました。
当時は「カリスマキャリアコンサルタント」として、メディアに取材されることも少なくありませんでした。
そんな私が、いざ「自分の息子の就職活動」と向き合うことになったとき――
正直、想像以上に難しかったのです。
プロとしての経験があっても、親としての関わり方はまったく別物。
息子の将来を思えば思うほど、つい余計な口を出してしまう。

早めに業界研究をしておけよ



ガクチカを意識した活動をしておけよ
どれも間違ってはいません。むしろ“正論”です。
けれど、本人からすれば“押しつけ”に感じたのだと思います。
たしか息子が大学2年生の終り頃、私は「業界研究に役立つから」と『会社四季報 業界地図』をプレゼントしました。
ところが、息子の反応は薄く、机の上に置かれたままでした。。。
息子が悩んでいるとき、「こうすればいい」と助言すれば確かに早い。
でも、それでは彼が自分で考え抜く時間を奪ってしまう。
遠回りに見えても、自分の頭で悩み、決断するプロセスこそが、成長には欠かせない。
そう思えるようになったのは、息子の就活を通じてでした。
就活中の子どもに、親はどう関わるべきか?
息子との就活を通して気づいたのは、
これは決して「うちの家庭だけの悩み」ではないということでした。
子供が就職活動中であることを話すと、同世代の同僚の中にも



就職活動について話してくれないから心配…



何か困っていそうだけど口を出すべきか…
と、私と似た悩みを皆が感じていることでした。
みんな、子どものことを思っている。
親としては、ただ純粋に応援したいだけ。
けれど、その想いが強ければ強いほど、知らず知らずのうちに子どもに“プレッシャー”を与えてしまう。
そして、せっかくのアドバイスが素直に届かなくなってしまう。
これは、どんな親にも、どんな家庭にも起こりうることだと思いました。
そんな中で、息子の就活を通じて改めて感じたのは、
「大学生は、もう立派な大人である」ということ。
頭では分かっていたはずなのに、大切なことだからこそ、つい“まだ子ども”として接してしまう自分がいました。
でも、たとえ遠回りに見えても、
自分で悩み、考え、答えを見つけていく過程こそが、何より大切なのだと感じました。
アドバイスすればすぐに解決できるようなことも、あえて黙って見守る。
そんな瞬間が何度もありました。
そしてもう一つ。
キャリアコンサルタントとして働いていた頃、
「どんなに正しいアドバイスでも、“タイミング”と“伝え方”を誤れば逆効果になる」
ということを、何度も実感してきました。
けれど、いざ“親”という立場になると、
そんな当たり前のことすら、できていなかったのです。
そこから私は、
「親がすべきこと」と「親だからこそ我慢すべきこと」、
この2つを意識的に切り分けるようにしました。
次章では、息子の就活を支える中で私が学んだ
“本当に子どもの力になる関わり方”についてお話しします。
本当に子どもの力になる関わり方
息子から「大学で心理学を学びたいけど、どう思う?」と相談を受けたのは、高校3年生の秋ごろでした。
私は、まずその理由を丁寧に聞きました。
そして「心理学を学んで、どんな仕事に就きたいのか?」を問いかけました。
そのうえで、私はいくつかの客観的なデータを見せながら話をしました。
心理学部出身者は一般企業への就職が多く、心理学を専門職として活かせる職種は限られているという現実があります。
また、臨床心理士や公認心理師といった資格職の平均年収は約450万円前後というデータもあります(※日本臨床心理士資格認定協会・厚生労働省調べ)。
私はそうした数字をもとに、もし心理や人間行動に興味があるなら、「行動経済学」など“心理と経済の両方を扱う分野”もおもしろいと伝えました。
心理を「人の心を理解する学問」としてだけでなく、「人の行動をデータで読み解く学問」として学ぶことで、将来の選択肢が広がると感じたからです。
このアドバイスは、内容としては正しかったと思います。
しかし、当時の息子にとっては“親の意見”にしか聞こえなかったのかもしれません。
ちなみに最終的に息子は「経済学部マーケティング学科」を選びました。
ただし私の提案に従ったからではなく、自分の足で何校も何校もオープンキャンパスを回り、教授や先輩の話を聞き、肌で感じて決めた結果でした。
私はその姿を見て、「本当に力になる関わり方」とは、“答えを与えること”ではなく、“考えるきっかけを渡すこと”なのだと実感しました。
大学選びと就職活動での違い
大学選びでは息子に相談されてからアドバイスをしましたが
就職活動では、前職の経験もあり
「業界分析は早めにしておけよ」
「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)は意識しておけよ」
といったアドバイスを一方的に伝えていました。
どれも正論でしたが、タイミングが違いました。
彼がまだ「就活モード」になっていない時期に伝えても、響かないどころか、ただの“口うるさい親”に感じられていました。。。
本当に大切なのは、本人が悩み、考え、動き出したタイミングを逃さないこと。
息子から「ちょっと相談していい?」と言われたその瞬間からが、親の出番なのだと感じました。
息子が大学入学が決まったとき、私は息子に「将来、どんな職業に就きたいのか」を聞きました。それは、就職活動のことを具体的に考えるずっとずっと前のことでした。
息子の答えはこうでした。
「自分が興味のあるファッション関連か、音楽(ラップ)関連の仕事に就くか、もしくは自分の得意なコミュニケーション能力を活かせる仕事に就きたい」
そこで私は、「大学生のうちに、自分の『好きなこと』と『得意なこと』をアルバイトやインターンで経験してみるといいよ」と提案しました。頭で考えるだけでなく、実際に体験することが大切だと感じたからです。
その結果、息子は大学生時代に以下の経験をしました。
- アパレル(セレクトショップ)のアルバイト
- 音楽イベントのアルバイト
- 営業系のインターン
どれも楽しかったそうですが、それぞれに違った学びがあったようです。
アパレルでは、先輩たちは楽しそうに仕事をしているものの「好きな服を買う余裕がない」と話す人が多く、仕事としての現実を目の当たりにしたそうです。
音楽イベントのアルバイトは、体力的にも精神的にもキツく、思っていた楽しさだけでは続けられないことを実感したようです。
一方で、営業のインターンはまさに天職だったようです。成果がどんどん出て、最終的にはインターン全体の責任者として、採用や教育まで任されるようになりました。
この経験を通じて、息子は「ファッションや音楽は趣味として楽しむ方が自分には合っている」と就職の方向性を定め、同時に学生時代に力を入れたこと(ガクチカ)としても最強のエピソードを手に入れることが出来たようです。



高校生の娘が大学受験で「総合型選抜(旧AO入試)」を選択肢として検討しています。この入試も就活と似ていて、「なぜ、その大学の、その学部で学びたいか」が問われます。
娘は教育に関心があるとのことだったので、「学習ボランティア」を薦めたところ、月に1回程度ですが通い始めました。実際に体験してみることで、教育への関心がより具体的に、そして強くなったようです。
就活のエントリーシート・面接について相談されたたら?
就職活動では、私はこちらから口出しするのを極力控えました。
理由はシンプルで、息子自身が考え、行動する機会を奪いたくなかったからです。正直、忍耐の連続でしたw
それでも、息子から相談を受けたときは、全力で向き合いました。
たとえば、エントリーシートや履歴書など提出書類のチェック、面接の想定問答の確認などです。ちなみに「内容のチェック」であって、私が代わりに書いたり答えを用意したりすることはしませんでした。
実際、息子が書いた文章を読み、論理の矛盾やストーリーの弱さは何度も指摘しました。
「ここは理由と結果がつながっていない」「このエピソードの結論が曖昧だ」といった具合です。
しかし、修正案を出すことはせず、あくまで「自分で考えさせました」
その方が、息子自身の言葉で思いを整理でき、面接でも自然に話せるようになると思ったからです。
親としては、「つい手を貸したくなる衝動」との戦いでした。
でも、結局は本人に任せること。私の役割は、困ったときに的確な指摘とアドバイスをすること。



息子は最初は「添削」的なことを望んでいたようですが、何度も何度も「論理の矛盾やストーリーの弱さ」を指摘されては自分の力で修正して、最終的には自分の力でエントリーシートを完成させ、面接にも自信を持って臨むことができたようです。
就活を通じて実感したのは、子ども自身が考え、悩み、行動することを尊重し、必要なときだけ手を差し伸べる。
これこそが、子どもにとっての「本当に力になる関わり方」なのだと感じています。
親が意識すべき3つのポイント
息子の就活を通じて、親として本当に意識すべきことは次の3つだと実感しました。
1.口を出す前に“タイミング”を見極める
正しいアドバイスも、子どもがその準備や心の準備ができていない段階では届きません。
息子の場合、「まだ考えていない」「まだ就活モードではない」タイミングでアドバイスを出すと、反発や無関心が返ってきました。
本当に必要なとき、つまり「相談したい」と言われた瞬間こそが、親がアドバイスすべきタイミングです。
2.答えを与えるのではなく“考えるきっかけ”を渡す
大学選びでも就活でも、私がしたことは“選択肢や情報を示す”ことにとどめました。
心理学だけでなく行動経済学という別の道を示したり、アルバイトやインターンで体験することを提案したり。
子ども自身が選び、行動することで、本当に納得のいく道を自分の力で見つけられるのです。
3.親は“チェック役”に徹する
書類添削や面接練習の際は、指摘はしますが、解答や文章の書き換えは決して手を出しません。
「自分で考えて修正する」プロセスこそが、子どもの自信と実力を育てます。
手を貸すのは、あくまで子どもが求めたときだけ。この線引きがとても重要です。
就活の親としての忍耐と信頼
息子の就活は、親としての忍耐力が試される期間でもありました。
口を出したい衝動を何度も抑え、必要なときだけ助言する――これが一番難しかったのですw
しかし、この経験を経て実感したのは、「子どもは自分の力で成長する」という信頼を持つことが、何よりも大切」ということです。
親がいくら正しいことを言っても、子ども自身が考え、行動して得た経験でなければ意味がありません。
そして、子どもが自分の選択で困難を乗り越えたとき、親としても一緒に喜び、感動を共有できる――この瞬間こそ、親子にとって最高の学びの時間です。
まとめ
子どもにとって就職活動は、自分の力で考え、行動し、道を切り拓く「人生の成長の機会」です。
同時に親にとっては、子育ての一区切りであり、子どもを信じて見守る「子育ての卒業」の瞬間でもあるのではないでしょうか。
口出しを控え、悩む時間を尊重し、必要なときだけ手を差し伸べる――それこそが、親が本当に力になれる関わり方です。
この経験を通じて、子どもが自分の力で道を切り拓く姿を見届けることこそ、親としての最大の喜びになるでしょう!
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